海外の構音障害研究⑤

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海外の構音障害研究シリーズ

20世紀半ばから今日までの日本における構音障害研究と改善実践の歴史

日本における構音障害研究は、戦後の医療・教育制度の整備とともに発展してきた。その歩みは、単なる発音矯正の技術開発だけではなく、障害観の変化、特別支援教育の発展、リハビリテーション医学の進歩、そして言語聴覚士制度の確立と密接に結びついている。以下、年代ごとにその特徴を整理してみたい。

History Overview
1950〜60年代発音矯正中心
1970年代言語治療の体系化
1980年代評価法の標準化
1990年代ST制度の成立
2000年代エビデンス重視
2010年代ICFと社会参加
2020年代〜現在デジタル技術と包括的支援
1950s–1960s

1950年代~1960年代:戦後復興期と「発音矯正」中心の時代

戦後の日本では、言語障害への関心が高まり始めた。背景には学校教育の普及と、児童の言語発達に対する関心の高まりがあった。

この時代の構音障害研究は主として耳鼻咽喉科医や教育学者によって進められ、「正しい発音を習得させること」が中心課題であった。対象となったのは主に口蓋裂児や機能性構音障害児であり、訓練方法も模倣や反復練習が中心であった。

1956年には日本音声言語医学会が設立され、構音障害研究の学術的基盤が整備された。これにより音声・言語障害に関する臨床研究が体系化され始めた。

当時の障害観は医学モデル、すなわち医療的アプローチが中心であり、障害は個人の機能不全として捉えられていた。

1970s

1970年代:言語治療の体系化

1970年代になると欧米のスピーチセラピーの影響を受け、日本でも言語治療の専門化が進んだ。

脳性麻痺児や知的障害児を対象とした研究が増加し、単なる発音指導ではなく、呼吸機能、発声機能、口腔運動機能などを総合的に評価する視点が導入された。

  • 呼吸機能
  • 発声機能
  • 口腔運動機能

また養護学校、現在の特別支援学校において言語訓練が実施されるようになり、教育現場と医療現場の連携が進展した。

この時代には運動障害性構音障害、dysarthriaの概念も広く紹介され始め、脳性麻痺児の構音障害研究が本格化した。

1980s

1980年代:評価法の標準化

1980年代は研究の量・質ともに大きく向上した時代である。

1981年には日本音声言語医学会による『構音検査法〈試案1〉』が発表され、構音障害の評価方法の標準化が試みられた。

これにより、どの音が誤っているか、どのような誤り方をしているか、どの程度改善しているかを客観的に評価できるようになった。

  • どの音が誤っているか
  • どのような誤り方をしているか
  • どの程度改善しているか

また脳性麻痺児に対しては、呼吸訓練、発声訓練、舌・口唇運動訓練などが組み合わされるようになった。

  • 呼吸訓練
  • 発声訓練
  • 舌・口唇運動訓練

一方で、この時代の訓練は依然として「正常発音への矯正」が主目的であり、コミュニケーション全体への視点は限定的であった。

1990s

1990年代:言語聴覚士制度成立への流れ

1990年代になると高齢化社会の進展により、脳卒中後の失語症や運動障害性構音障害患者が増加した。その結果、研究対象は小児だけでなく成人・高齢者へと広がった。

1997年には言語聴覚士法が成立し、1999年から国家資格として言語聴覚士、STが誕生した。これは日本の構音障害研究史における大きな転換点である。

専門職の制度化によって、病院、リハビリテーション施設、学校、福祉施設での言語訓練が急速に普及した。

  • 病院
  • リハビリテーション施設
  • 学校
  • 福祉施設

またこの時期からQOL、すなわち生活の質の概念が導入され、単なる発音の正確さだけでなく、「相手に伝わること」が重視されるようになった。

2000s

2000年代:エビデンス重視の時代

2000年代にはEBM、Evidence-Based Medicineの考え方が浸透した。

研究では、音響分析、舌運動解析、呼吸機能測定、発話明瞭度評価など、客観的指標が活用されるようになった。

  • 音響分析
  • 舌運動解析
  • 呼吸機能測定
  • 発話明瞭度評価

脳性麻痺児への訓練も、従来の口腔運動訓練のみならず、姿勢調整、呼吸調整、発話速度の制御を含む包括的アプローチへと変化した。

  • 姿勢調整
  • 呼吸調整
  • 発話速度の制御

また重度の構音障害者に対してはAAC、補助的代替コミュニケーション法の導入が進み、コミュニケーション支援という視点が強まった。

2010s

2010年代:ICFと社会参加重視

2010年代になると、WHOのICF、国際生活機能分類の影響が強く現れる。

構音障害は単なる発音の問題ではなく、活動、参加、環境要因との相互作用として理解されるようになった。

  • 活動
  • 参加
  • 環境要因

例えば脳性麻痺児の場合、「発音を完全に正常化する」ことよりも、「学校生活や地域生活で意思疎通できる」ことが重視されるようになった。

2020s–Now

2020年代~現在:デジタル技術と社会的アプローチ

近年はAIやデジタル技術の発展により、音声分析ソフト、発話評価システム、遠隔リハビリテーション、音声認識技術の活用が進んでいる。

  • 音声分析ソフト
  • 発話評価システム
  • 遠隔リハビリテーション
  • 音声認識技術

また運動障害性構音障害に対しては、呼吸・姿勢・体幹機能を含めた包括的アプローチが重視されている。

さらに障害学やインクルーシブ教育の影響を受け、「障害者が社会参加できる環境を整えること」が研究・実践の重要なテーマとなっている。

このため現在の構音障害支援は、発音機能の改善、AACの活用、周囲の理解促進、社会的バリアの除去を組み合わせたものへと発展している。

  1. 発音機能の改善
  2. AACの活用
  3. 周囲の理解促進
  4. 社会的バリアの除去

まとめ

日本の構音障害研究は、1950~60年代の発音矯正中心の時代から、1970年代の言語治療の体系化、1980年代の評価法の標準化、1990年代の言語聴覚士制度の成立、2000年代のエビデンス重視、2010年代のICFと社会参加重視、そして2020年代のデジタル技術と包括的支援へと発展してきた。

1950〜60年代発音矯正中心
1970年代言語治療の体系化
1980年代評価法の標準化
1990年代言語聴覚士制度の成立
2000年代エビデンス重視
2010年代ICFと社会参加重視
2020年代デジタル技術と包括的支援

特に脳性麻痺者への支援は、「正常な発音を獲得させる訓練」から、「本人が社会の中で円滑にコミュニケーションできるよう支援する実践」へと大きく変化している。この変化は、日本社会全体の障害観が医学モデル、すなわち医療的アプローチから、社会モデル、すなわち社会的アプローチへと移行してきた歴史とも重なっている。

参考
  • 日本音声言語医学会編『音声言語医学』各巻・各号
  • 山下真司ほか「構音検査法〈試案1〉」『音声言語医学』22巻2号、1981年
  • 三枝英人「運動障害性構音障害(dysarthria)に対する医学的対応」『音声言語医学』61巻1号、2020年
  • 日本音声言語医学会 学会誌アーカイブ
  • 言語聴覚士法(1997年制定)
  • WHO『International Classification of Functioning, Disability and Health(ICF)』(2001)
Author
古本 聡 日本構音障害協会 理事

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